2023.05.31 更新 2020.10.09 公開
マンションの地震リスクとは?倒壊する危険性と正しい避難方法を解説

- マンションで地震が起きたらどうなるの?
- マンションって倒壊する?折れる?
- 大地震が起きたとき、マンションではどうすればいい?
“地震とマンション”について、さまざまな疑問を感じている方が多いのではないでしょうか。
いつ巨大地震が襲ってもおかしくない地震大国の日本では、マンションで地震が起きたときに備えた情報を、しっかり収集しておくことが欠かせません。
この記事では、マンションで地震が起きたらどうなるのか、具体的に起こり得るリスクと、いざというときに取るべき行動について、詳しく解説。
避難所に行かずマンションで避難生活を送る「在宅避難」や、今すぐ行いたいマンションの地震対策についても、お伝えしていきます。
最後までお読みいただくと、マンションと地震に関して最新の考え方を取り入れることができ、いざというときの準備、心構えができるようになります。
地震に怯えず、安心してマンション暮らしを送る方法を学んでいきましょう。
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大地震が起きたらマンションはどうなる?マンションの地震リスク
大地震が来たら、マンションはどうなるのでしょうか。
マンションで起こり得るリスクについて解説します。
【リスク1】倒壊する可能性は建築年によって異なる
まず多くの人が気になるのが「マンションって、地震で倒壊するの?」という点ではないでしょうか。
マンションが倒壊する危険性は、マンションの建築年によって変わってきます。
▼ 建築年月日(認可申請日)と建築基準法で定められた耐震基準
1981年5月以前 | 旧耐震基準:震度5程度の揺れで倒壊しない |
1981年6月以降 | 新耐震基準:震度6〜7程度の揺れで倒壊しない |
1981年6月以降に建築されたマンションであれば、震度6〜7程度の大きな地震が起きても、損傷が少なくて済む可能性が高いでしょう。
具体的な構造や耐震性については、マンションの管理組合に問い合わせて確認してみると良いでしょう。
【リスク2】高層マンションは大きく揺れる危険がある(長周期地震動)
マンションが倒壊するリスクが少ないからとって、「マンションで地震が起きても安心!」とは言い切れません。
特に高層マンションの場合には「長周期地震動」といって、大きな揺れが長く続く特徴があります。
過去の大地震では、長周期地震動によって以下の被害が起きています。
▼ 過去の長周期地震動による被害
2004年 新潟県中越地震 | 六本木ヒルズで6基のエレベーターが停止し、うち1基は客室をつるすワイヤーが切断されていた。 |
2011年 東日本大震災 | 西新宿の高層ビルなどで最大1m程度の振幅で10分間以上にわたり揺れが続いた。 |
長周期地震動による被害は、高層階になるほど大きくなる傾向にあります。マンション上層階の揺れは、地上で感じる揺れの2〜3倍以上となることも、覚悟しなければなりません。
(参考)超高層建築物等の固有周期
建築物の構造と規模 | 固有周期の目安 |
高さ60m(20階建て程度) | 1〜2秒程度 |
高さ200m(50~60階建て程度) | 4〜6秒程度 |
免震建築物 | 最大8秒程度 |
出典:国土交通省
マンションの建物自体が倒壊しなくても、室内が大きく揺れることで転倒したり、家具が激しく倒れたりする被害が予想されます。
最悪、死亡につながる負傷をするリスクがあることは、覚えておきましょう。
【リスク3】地上へ移動できなくなる危険がある(高層難民)
近年問題になっているのが、マンションのエレベーター設備が故障し、高層階に住む住民が地上に降りられなくなる「高層難民」です。
例えば、川崎市の武蔵小杉にある47階建てのタワーマンションでは、2019年に台風による停電・断水が発生しました。
このタワーマンションではおよそ1,500人が暮らしていましたが、停電でエレベーターが使えなくなったため、階段で上り下りするしか移動手段がなくなってしまったのです。
しかし、「47階」ともなれば、階段を自分の脚で上り下りするのは非現実的です。まして、高齢者や病気のある人にとっては不可能になります。
これは台風被害の例ですが、地震が起きればエレベーターの故障だけでなく、通路や階段の天井や壁が落下したり、ドアが開かなくなったりする損害も、想定されます。
マンションの高層階に暮らす人にとっては、「地震により地上へ降りられなくなる」ことは、大きなリスクとなります。
なお、これらのリスクに対しどんな対策を行うべきかについては、後ほど「4. 今すぐ行いたいマンションの地震対策」にて解説します。
マンションで大きな地震が発生したら取るべき行動
もしマンションにいるときに大きな地震が発生したら、どう行動したら良いのでしょうか。
基本は以下の4ステップです。
- 身の安全を確保する
- 火の元を確認する
- ドアや窓を開けて逃げ道を確保する
- 身の危険があれば避難する
それぞれ、改めて確認しておきましょう。
【ステップ1】身の安全を確保する
地震が起きた瞬間、まず最優先にすべきは「身の安全」です。
特にマンションの高層階(10階以上)では、揺れが非常に大きく長くなることを想定してください。
丈夫なテーブルの下や、物が落ちてこない・倒れてこない・移動してこない空間に身を寄せます。背の高い家具や窓ガラスから離れ、頭と目を保護しましょう。
冷蔵庫など、一見動きそうにない重い家電や家具でも、高層階のマンションでは大きく移動する危険があるため、十分な注意が必要です。
【ステップ2】火の元を確認する
揺れが収まったら、火の元の確認を行います。ガスコンロやストーブなどの消火を確認しましょう。
もし出火してしまった場合は、慌てずに落ち着いて初期消火を行います。消化器を噴射したり水をかけたりして、火を消し止めましょう。
消火については「マンションで火事!危険性と逃げ遅れない避難方法・火元の責任を解説」もあわせてご覧ください。
【ステップ3】ドアや窓を開けて逃げ道を確保する
次に、玄関ドア・ベランダの窓などを開けて、逃げ道を確保します。
地震直後は問題なく開閉できても、この後の余震の影響で開かなくなる可能性があるので、しばらく開けっぱなしにしておきます。
マンションの自宅内だけでなく、共用部分の非常ドアなども開けておきましょう。
なお、このときは慌てずに行動することを心掛けてください。大きな地震の後は、床に落下した家具、ガラスの破片、損壊した壁の破片などが散乱していることもあります。
慌てて転倒すればけがのもととなりますので、落ち着いて行動しましょう。
なお、避難の際には、エレベーターは使わないようにしてください。余震などで閉じ込められるリスクがあります。
(補足)エレベーターにいるときに地震が起きたら
ここで補足ですが、マンションのエレベーター内にいるときに地震を感じたら、すぐに行き先階のボタンをすべて押してください。
地震によって停電する前なら、近くの階で止まってドアが開く可能性があります。
「次の階で下りるには、何階のボタンを押せば良いか」などと考えている暇はないので、「とにかくすべての階のボタンを押す」と覚えておきましょう。
もしエレベーター内に閉じ込められてしまったら、非常電話のボタンを押し続けて外部と連絡を試み、落ち着いて救助を待ちます。
【ステップ4】身の危険があれば一時集合場所や避難所に避難する
万が一、マンションで火災が発生しているなど、身の危険が迫っている場合には、地上階に下りて、地域の一時集合場所や避難所に避難します。
沿岸部で津波警報が出された場合は、高台などの安全な場所に素早く避難します。
避難の前には、電気のブレーカーを切り、ガスの元栓を閉めることを忘れないようにしましょう。
身の危険が迫っていない場合には、地上に行かずにマンション内で在宅避難する方法があります。詳しくは次章で解説します。
大地震が起きたらマンション住民は避難所へ行かず在宅避難がおすすめ
「大地震が起きたとき、マンション住民は避難所に行くべき?それとも、自宅で過ごしても良い?」
と疑問に感じているかもしれません。
結論からお伝えすると、倒壊の危険性がないマンションの住民は、避難所に行かずに在宅避難がおすすめです。
その背景を見ていきましょう。
マンション住民は在宅避難を原則とする地域もある
「地震のときは、避難所に避難しないといけないのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、地域によっては、行政によってマンション住民に在宅避難が推奨されています。
例えば、新宿区の防災マニュアルには、以下のとおり記載されています。
万一、建物被害の無いマンション住民が避難所に避難した場合、新宿区地域防災計画に定める想定を超える避難者により、避難所では、避難生活に混乱や支障が生じる恐れがあります。
また、これまでの大震災等が発生した被災地の避難所においては、避難者の肉体的・精神的なストレスによる、多くの健康被害が報告されています。
こうしたことから、マンション建物の倒壊等の危険性が無い場合は、在宅避難を原則とした対策を実施していきます。
以上は新宿区の例ですが、ほかの地域においても、基本的に避難所はマンションよりも戸建住宅の住民が優先です。
在宅避難にはメリットが多い
在宅避難には、数多くのメリットがあります。
避難所における盗難・暴行などのトラブル、プライバシーが守られないストレスは、在宅避難にはありません。
避難中に、自宅マンションが空き巣の被害に遭う心配もなくなります。
さらに、移動が困難な高齢者や病人にとって負担がありませんし、ペットの世話も自宅で問題なく可能です。
デメリットとして食料・飲料などの備蓄が必要ですが、備蓄がない場合には、在宅避難を行いながら、食料・飲料などの配給物資を避難所に取りに行くことも可能です。
在宅避難のメリット
- 避難所での盗難・暴行などのトラブルを回避できる
- プライバシーが守られる
- 避難中に自宅マンションが空き巣に入られる心配がない
- 移動が困難な高齢者・病人の負担が少ない
- ペットと一緒に過ごせる
在宅避難のデメリット
- 食料・飲料などの備蓄が必要(配給物資を取りに行くことで対応は可能)
以上から、マンションに住んでいる方は、大地震が起きても、基本的には在宅避難の方向で考えておきましょう。
今すぐ行いたいマンションの地震対策
地上階に比較して大きな揺れに見舞われやすいマンションでは、事前の地震対策が非常に重要です。
今すぐに行いたいマンションの地震対策を4つ、ご紹介します。
【地震対策1】家具・家電を固定する
1つめは、家具・家電の固定をしっかりすることです。
新潟中越地震では、負傷者の約40%が家具類の転倒・移動・落下によるものでした。
大型家具、テレビ・パソコン、食器棚・本棚などに転倒防止器具などを付けて、固定をしましょう。
【地震対策2】避難経路を確認する
次に、地震で火災が発生した場合など、避難が必要になったときの避難経路を確認しておきましょう。
その際、複数の避難ルートを想定しておくことが大切です。
地震によってメインとして考えていた避難通路がふさがれるリスクもあるためです。
高層階のマンションでは、ベランダなどに設置されている「避難はしご」の使い方も、マスターしておきましょう。
【地震対策3】災害時用の備蓄を準備する
マンション内に閉じ込められるリスクがあり、かつ在宅避難となる可能性が高いマンション住民にとって、災害時用の備蓄を準備しておくことは非常に重要です。
具体的に備蓄しておくべきものをリストにしましたので、参考にしながら、我が家に必要な備蓄をそろえてください。
▼ マンション住民の備蓄リスト
非常用トイレ | 1日7回×家族の人数×7〜14日分を目安に準備 |
トイレットペーパー | 家族の人数分のロール数を目安に準備 |
ウェットティッシュ | 体を拭く・食器を拭くなど水の節約になる |
カセットコンロ | ガス・電気が不通になった際の調理器具として利用 |
赤ちゃん用品 | おむつ・離乳食のレトルトパック・着替えなど |
介護用品 | おむつ・介護食のレトルトパック・着替えなど |
ペット用品 | ペットシーツ・ペットフードなど |
乾電池・ソーラーパネル・蓄電池 | 電気が不通になった際に利用 |
ラジオ | 停電時の情報収集に利用 |
飲料水 | 3リットル×家族の人数×7〜14日分を目安に準備 |
食料品 | 缶詰、アルファ米、粉末プロテイン、カップ麺、お菓子など |
医薬品・サプリメント | 普段服用している薬やビタミン剤など |
ゴミ袋 | 排泄物やゴミの処理用に45L×50枚以上 |
【地震対策3】地震保険に加入する
地震でマンション本体に大きな損害がなかったとしても、室内では、家財(家具、家電など)が損害を受けるリスクが高くなります。
あるいは、マンションが倒壊はしなくても、一部損壊したり、窓ガラスや玄関ドアなどが損害を受けたりすることもあるでしょう。
そんなリスクに備えるためには、地震保険に加入しておくと安心です。地震による建物・家財の損害が補償されます。
詳しくは「マンションの地震保険は必要?基礎知識とメリット・デメリットを解説」をご覧ください。
これからマンションを買うなら知っておきたい地震に強いマンションの選び方
これからマンションを買う人にとっては、「地震に強いマンションの選び方」が最も知りたい点ではないでしょうか。
地震に強いマンションを選ぶうえでチェックしてほしいポイントをご紹介します。
【チェックポイント】耐震構造
新しいマンションであれば、新しい耐震基準に適合しているため、耐震性はあると考えられます。
▼ 建築年月日(認可申請日)と建築基準法で定められた耐震基準
1981年5月以前 | 旧耐震基準:震度5程度の揺れで倒壊しない |
1981年6月以降 | 新耐震基準:震度6〜7程度の揺れで倒壊しない |
一方、注意が必要なのは、中古マンションです。特に1981年以前に建築されたマンションは、慎重に耐震性を判断するべきでしょう。
とはいえ、専門家でないと耐震性の正確な判断は難しいのも事実です。よって、専門家に「耐震診断」を依頼するケースもあります。
例えば、一般財団法人 日本耐震診断協会 などに依頼することで、専門家の耐震診断を受けることができます。
また、『中古マンションを耐震面で見極める際に確認すべきポイント』についてはこちらの記事をご覧ください。
マンションでの地震に関する2つの注意点
最後に、マンションでの地震に関する注意点を2つ、お伝えします。
【注意点1】日頃から地震が起きた場合のシミュレーションをしておく
1つめの注意点は「日頃から地震が起きた場合のシミュレーションをしておく」ことです。
この記事をここまで読んでくださった方は、“マンションで地震が起きたとき”のことを、読む前よりもずっとリアルにイメージできるようになったのではないでしょうか。
ですが、時間が経つと薄れてしまうものです。ぜひ定期的に、「地震が起きたらどうするか」をシミュレーションして、いざというときにサッと行動できる状態をキープしましょう。
家族全員が同じ認識を持てるよう、定期的に家族で避難訓練を行うのもおすすめです。
【注意点2】建物の耐震性に不安があるなら引っ越しも検討する
2つめの注意点は「建物の耐震性に不安があるなら引っ越しも検討する」ことです。
本文中でもご紹介したとおり、室内の地震対策は今すぐに行うことができますが、マンションの建物自体の耐震性や地盤に問題がある場合には、個人でできる対策はありません。
建物の耐震性に不安があるのであれば、思い切って引っ越しを検討するのも、ひとつの手です。
高い出費にはなりますが、いざというときの安心には変えられないともいえるでしょう。
まとめ
大地震が起きた場合、マンションで考えられるリスクはこちらです。
- 倒壊する可能性は建築年とマンションの構造によって異なる
- 高層マンションは大きく揺れる危険がある(長周期地震動)
- 地上へ移動できなくなる危険がある(高層難民)
マンションにいるときに大きな地震が発生したら、落ち着いて以下の行動を取りましょう。
- 身の安全を確保する
- 火の元を確認する
- ドアや窓を開けて逃げ道を確保する
- 身の危険があれば一時集合場所や避難所に避難する
大地震が起きたときマンション住民は避難所に行かず、在宅避難がおすすめです。在宅避難を行うために必要な備蓄を、日頃から行っておきましょう。
今すぐ行いたいマンションの地震対策はこちらです。
- 家具・家電を固定する
- 避難経路を確認する
- 災害時用の備蓄を準備する
- 地震保険に加入する
これからマンションを買う方は「地盤」と「耐震構造」をしっかりチェックして、地震に強いマンションを選んでください。
マンションでの地震に関する2つの注意点は以下のとおりです。
- 日頃から地震が起きた場合のシミュレーションをしておく
- 建物の耐震性に不安があるなら引っ越しも検討する
マンションは、ポイントさえ押さえて必要な対策をすれば、大地震でも大きな損害を受けることなく切り抜けられる可能性が高い住居です。
必要な対策をしっかり行って、いざというときに備えましょう。