2021.07.02 更新

マンションの大規模修繕とは?実施内容や期間・費用など詳しく解説

マンションの大規模修繕とは?実施内容や期間・費用など詳しく解説

マンションの大規模修繕とは、マンションの初期機能を維持するために実施する大規模な修繕工事のことです。マンションに住み続けていると、月日の経過とともにどうしてもさまざまな性能が劣化していきます。

そのため、おおよそ11~15年に一度大規模な修繕を行いマンションの初期機能を回復、維持できるようにしています。

「大規模」と呼ぶだけあって修繕内容は多岐に渡り、数年かけて計画を立てながら進めていきます。必要な資金はマンション1棟当たり数億以上になることもあるので、失敗しないよう慎重に進める必要があります。

そこでこの記事では

  • マンションの大規模修繕とは?
  • マンションの大規模修繕が必要な理由
  • マンションの大規模修繕の周期や必要な資金
  • マンションの大規模修繕の内容
  • マンションの大規模修繕の事例
  • マンションの大規模修繕の実施手順
  • マンションの大規模修繕のトラブル3選
  • 知っておきたいマンションの大規模修繕の対処法

をまとめてご紹介します。この記事を最後まで読めばマンションの大規模修繕とはどのようなものか把握でき、最適な大規模修繕ができるよう心構えをすることができるはずです。

どのようなマンションでも必ず直面する、大規模修繕。事前に知識を身に付けて、納得のいく大規模修繕ができるようになりましょう。

Advisor

元銀行員 アドバイザー 鰭沼悟

[監修]宅地建物取引士/元銀行員

鰭沼 悟

宅地建物取引士、不動産投資家歴15年、元銀行員。不動産仲介からリノベーション設計・施工をワンストップで提供する株式会社grooveagent(ゼロリノベ)代表取締役。

Author

“【著者】ゼロリノベ編集部"

[著者]

ゼロリノベ編集部

元銀行員・宅地建物取引士・一級建築士が在籍して「住宅ローンサポート・不動産仲介・リノベーション設計・施工」をワンストップで手がけるゼロリノベ(株式会社groove agent)。著者の詳しいプロフィール

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マンションの大規模修繕とは

冒頭でも述べたように大規模修繕とは、マンションの初期機能を維持するために実施する修繕工事のことです。

大規模修繕は

  • 一般的には共有部分を対象に実施をする
  • 「大規模」と言うだけあって壁、柱、床、はり、屋根、階段のうち一種類以上を半分以上修繕する

という2つがポイントです。

多くの人がマンションに住み続けていると、月日の経過とともにどうしても性能が劣化していきます。そのため、平均的には11~15年に一度大規模な修繕を行いマンションの初期機能を回復、維持できるようにします。

建築基準法第8条第1項にも「建築物の所有者、管理者又は占有者は、その建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な状態に維持するように努めなければならない」と記載されているため、マンションの性能維持のための大規模修繕は必要なことだと言えるでしょう。

【修繕工事とは別で「改修工事」と「改良工事」がある】

 

修繕工事と間違えやすいのが「改良工事」と「改修工事」です。改良工事は初期機よりもさらに性能をよくすることで、バリアフリー工事やエレベーターの設置などが含まれます。

一方で、改修工事は今の時点で望まれるレベルまで回復されることを指します「初期機能にプラスしてバリアフリー機能も欲しい」と判断された場合には、初期機能まで回復させる修繕工事と、機能を高める改良工事を同時に行います。

大規模修繕を実施するときにも、場合によっては改修工事のように性能のグレードアップまで行うこともあります。

特徴
改修工事 現時点で望まれるレベルまで回復されることで「改良+修繕」といった要素を持つ。 ・外壁の修繕をするだけでなく、耐火性能がある素材に変更する
改良工事 マンションに今までなかった性能をプラスし、より快適に暮らせるようにする。 ・バリアフリー性能の追加

・エントランス設備のグレードアップ

参考:
国土交通省「第4章 適正な保全業務の効率的な実施」
国土交通省「マンション管理の基本と改修による再生の重要性」
国土交通省「法律上の手続きと補助・融資等の制度」  

マンションの大規模修繕が必要な3つの理由

マンションの大規模修繕が必要な理由として

  • 快適な住環境を維持する
  • 安全性を確保する
  • マンションの資産価値の低下を防ぐ

という3つのポイントがあります。それぞれどうして必要なのか解説していきます。

快適な住環境を維持する

国土交通省の調べによると2018年末時点で国内マンションストック数は約654.7万戸となり、国民の約1割がマンションで暮らしているのが現状です。

それと同時にマンションの老朽化が進行しており、下記のグラフのように年々築40年以上のマンションは増えています。令和10年末には、全マンションの約2割が築40年以上を迎えます。

マンション 大規模修繕工事出典:国土交通省「マンション政策の現状と課題」

マンションの設備は半永久的に使用できるものではないので、築年数の古いマンションをそのまま放置すると快適な住環境を維持できません。

下記の表は築40年以上のマンションで発生するトラブルをまとめたものですが、「漏水や雨漏れ」「洗面所や台所、トイレの詰まり」といった生活に直結するトラブルが多いことが分かります。

築40年以上のマンションで起こりやすいトラブル
漏水や雨漏り 40%
給排水管の老朽化 36%
外壁などの剝落 28%
鉄筋の露出・腐食 15%
洗面所や台所の排水詰まり 12%
浴室やトイレの排水詰まり 12%
水道水から赤水発生 5%

参考:国土交通省「マンション政策の現状と課題」

住環境が悪化すると住み心地が悪くなるのはもちろん、通常の生活をおくることに支障をきたすことが考えられます。

マンションの状態を把握し定期的に修繕を行うことは、長く住み続けるためには欠かせないことなのです。

住居の安全性を確保する

先ほども述べたようにマンションの老朽化が進んでおり、適切な維持管理をしないと住民のみならず近隣住民の安全性が確保できないことがあります。

下記の写真は、適切な修繕が実施されず壁や外壁が剝がれてしまった事例です。このような状態で放置をすると、歩行者や住民が怪我をするかもしれません。

倒壊の写真出典:国土交通省「マンション政策の現状と課題」

また、地震などの災害に備え安全を確保するという意味でも、大規模修繕は必要です。耐震性が不十分な場合や構造に劣化がみられる場合には、適切な補強をして安全性を確保しなければなりません。

1981年から適用された建築基準法では

  • 中規模の地震(震度5強程度)では、ほとんど損傷を生じない
  • 大規模の地震(震度6強から震度7程度)に対しても、人命に危害を与えない

ことを目標としているため、この状態を保つ必要があります。このように、マンションの経年劣化により安全性を損なわないためにも大規模修繕が実施されています。

参考:

国土交通省「マンションの耐震性等についてのQ&Aについて
国土交通省「マンション管理の基本と改修による再生の重要性」

マンションの資産価値を維持できる

マンションの価値は周辺の環境が大きく変わらない限り、下記のように新築時からどんどん低下していくと言われています。

首都圏の中古マンションの価格推移
築0~5年 5,411万円
築6~10年 4,602万円
築11~15年 4,242万円
築16~20年 3,716万円
築21~25年 2,963万円
築26~30年 2,605万円
築30年以上 2,177万円

参考:公益財団法人東日本不動産流通機構「築年数から見た 首都圏の不動産流通市場」

この状況で修繕を怠ると快適に生活する機能が維持できていないとみなされ、資産価値の低下に拍車をかけてしまいます。

定期的に大規模修繕をすればマンションの初期機能を維持できるため、著しい資産価値の低下を防げるようになるでしょう。大切な資産を少しでも価値の高い状態でキープできるのも、大規模修繕が必要な理由の一つです。

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マンションの大規模修繕の時期

マンションの大規模修繕の必要が分かったところで気になるのが、大規模修繕の時期や頻度ですよね。どれくらいの頻度で大規模修繕を実施しなければならないのか、データをもとのご紹介します。

11~15年に1度の頻度で実施することが多い

マンションの大規模修の時期には規定がありません。後ほど大規模修繕の手順をご紹介しますが、マンションごとに計画を立てて時期を調整し実施していきます。

国土交通省の「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」では、11~15年に1度の頻度で実施していマンションが多いことが分かりました。

1回目の大規模修繕の実施時期は?
11~15年 64.9%
16~20年 24.3%
21~25年 2.1%
26~30年 1.5%
31年以上 6.1%

参考:国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」

この背景には2008年から建築基準法の一部が改正されて、建物の定期的な点検、調査基準が厳しくなったことがあります。

とくに、外壁の全面打診調査は前回の工事から10年に一度実施することが義務化されたため、このタイミングに合わせて大規模修繕を検討するケースも多いようです。

また、10年を経過すると不具合や劣化を感じる設備が増えるというのも一因です。大規模修繕を検討する場合やどれくらいの周期で実施するものなのか迷った場合には、11~15年を目安に考えてみましょう。

参考:
国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」
国土交通省「建築基準法第12条に基づく定期報告制度が変わります ~見直しのポイント~

大規模修繕は1度実施して終わりではない

大規模修繕が一度終了すると「もう費用はかからないだろう」と安心する人もいるでしょう。しかし、大規模修繕は一度度実施して終わりではありません。築年数と共に劣化していく部分は異なるため、下記の表のように2回目、3回目と回数を重ねる必要があります。

築年数(例) 主な修繕部分 特徴
1回目 11~15年 外壁の修繕がメイン 初期機能を回復
2回目 22~26年 外壁や屋根、設備の修繕 外部のみでなく設備の修繕が増えてくる
3回目 33~37年 外部や設備の修繕 建物を構成する部材を一新する時期
4回目 44~48年 外壁や屋根、設備の修繕 新築マンションと同レベルの性能が維持できるようグレードアップも視野に入れる

1回目の大規模修繕は外壁の修繕がメインとなることが多いですが、回数を重ねるに連れて修繕する範囲が多岐に渡っていくことが分かります。

国土交通省が発表している「マンション管理の基本と改修による再生の重要性」では

  • 一定の年数を経過したマンションでは修繕工事のみでとどまらず、改良を視野に入れた改修工事を実施することが好ましい
  • 実施回数を重ねるに連れて、改良の割合を大きくした改修工事として実施する必要がある

と述べられており築年数を重ねるごとに居住者にとって快適な暮らしができるよう、修繕のみならず改良も視野に入れ検討しなければなりません。

そのため、一般的には大規模修繕を重ねるに連れて必要な費用が増えるとも言われています。

参考:
国土交通省「マンション管理の基本と改修による再生の重要性」
[マンション長寿命化のための 大規模修繕工事4つのポイント」

【マンションの大規模修繕時期に関するポイント】

  1. マンションの大規模修繕は11~15年の頻度で実施するケースが多い
  2. マンションの大規模修繕は、一度実施して終わりではない
  3. 一般的には大規模修繕を重ねるに連れて必要な費用が増える

マンションの大規模修繕を実施内容一覧

マンションの大規模修繕は、基本的に共用部分を対象に実施されます。国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」では主な修繕工事内容として、下記の16項目を提示しています。

実施場所 実施内容
屋根 屋上や屋根、バルコニー屋根の防水
階段や共用部分の床、バルコニーの床の修繕
外壁 外壁の塗り替えやタイル補修

シーリングやコンクリートの補修

鉄部 廊下や階段、バルコニーの手すり

共有部分のドアやサッシ等

建具・金物等 廊下や階段、バルコニーの手すり

共用部分のドアやサッシ等

郵便受けや掲示板などの設備

共用内部 管理人室や共用廊下
給水設備 屋内共用給水管や給水ポンプ等 
排水設備 屋内共用雑排水管や排水ポンプ等
ガス設備 屋外埋設部ガス管や屋内共用ガス管
空調・換気設備 共用部分のエアコンや換気口等
電灯設備 共用廊下等の照明器具や配線器具、非常照明等

太陽光発電設備

情報・通信設備 電話やテレビ、インターネット設備
消防用設備 消火栓ポンプや 消火管、ホース等

放水口や火災感知器等

昇降機設備 昇降機の設置や修繕
外構・附帯設備 ゴミ置き場や駐輪場、歩道、平面駐車場等
機械式駐車場 機械式駐車場の修繕

16の項目を見てみると、外壁や廊下、階段や給排水設備など共設備がずらりと並んでいます。

マンションの築年数や居住者からの声、調査結果などにより大規模修繕をすべき場所は異なるため、どのような設備や場所が対象となるのか参考程度にしてみてください。

参考:
国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」
国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」

【マンションの大規模修繕内容に関するポイント】

  1. マンションの大規模修繕は主に共用部分を対象に実施される
  2. マンションの築年数や調査結果などで、どの場所から修繕すべきか大きく異なる

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マンションの大規模修繕にかかる費用

「マンションの大規模修繕はどれくらいかかるの?」と費用に不安を抱いている人もいるのではないでしょうか。ここでは、1階の大規模修繕にかかる一戸あたりの費用をご紹介します。

1回の修繕には一戸あたり75~125万かかることが多い

国土交通省が発表している「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、下記のように76万~125万の負担となっているケースが50%を上回っています。平均的に見ると1回の大規模修繕費は、一戸あたり75~125万程度の負担となるようです。

一戸あたりの負担工事金額
0~25万 6.8%
26~50万 6%
51~75万 13.8%
76~100万 30.6%
101~125万 24.7%
126~150万 9.6%
151~175万 4.8%
176~200万 1.5%
201~225万 2.2%

続いてどのような修繕に費用がかかるのか場所別に見てみると、下記のように外壁の塗装や給水設備の修繕に大きな費用がかかることが分かっています。

修繕工事費の費用負担額の割合
仮設工事 6.5%
屋根防水 6.7%
床防水 5.3%
外壁塗装等 18.8%
鉄部塗装等 4.8%
建具、金物等 5%
共用内部 3.5%
給水設備 9.8%
排水設備 6.1%
ガス設備 1.7%
空調換気設備 1.2%
電灯設備等 4.7%
情報通信設備 6.2%
消防用設備 3.1%
昇降機設備 6%
外構、付帯設備 7%
調査、診断設計費用 3.3%
長期修繕計画作成費用 0.3%

修繕工事をする場所により大きく費用が異なるため、毎回同じような負担額になるとは限らないので注意しましょう。

大規模修繕費用を見て「多額な金額を急に用意するのは難しい」と思った人もいるでしょう。次の章で、一戸あたりの修繕費をどのように回収するのか詳しくご紹介します。

参考:
国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」
国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」

一括で回収するのではなく「修繕積立金」として毎月徴収される

マンションの大規模修繕費は、一括で請求されことはまずありません。マンション購入時に大規模修繕計画と、それにかかる修繕費を修繕積立金として提示されることが多いです。家賃のように毎月定められた金額を納めることで、大規模修繕に備えていきます。

修繕積立金の毎月の負担額はマンションによって大きく異なりますが、一つの目安としてマンション全体の建築延床面積から算出する方法があります。

マンション全体の建築延床面積 支払額(月額)
【15階未満】 5,000㎡未満  218円/㎡・月 
5,000~10,000㎡ 202円/㎡・月
10,000㎡以上 178円/㎡・月
【20階以上】 206円/㎡・月

例えば、全体の延床面積が5,000㎡未満の10階建てマンション25㎡の部屋に住んでいた場合、218円×25㎡=5,450円となり毎月5,450円ほどの負担となります。

また、修繕費を要するマンションの機械式駐車場を利用している場合は、下記のような目安金額がプラスされます。

機械式駐車場の種類 1台あたりの月額金額
2段(ピット1段)昇降式 7,085円/台・月
3段(ピット2段)昇降式 6,040円/台・月
3段(ピット1段)昇降横行式  8,540円/台・月
4段(ピット2段)昇降横行式 14,165円/台・月

2段(ピット1段)昇降式で2台分の駐車場を借りている場合は7,085円×2台=14,170円がプラスされるので、月々の負担はかなり大きくなるでしょう。

ただし、先ほども述べたように修繕積立金額はマンションにより大きく異なるため、どれくらい必要となるのか目安程度に参考にしてみてください。

【マンションの大規模修繕費が不足していたら】

大規模修繕計画に沿って進めていても思ったより費用がかかり、計画通りに進めると費用が不足してしまうことがあります。

その場合は

  1. 臨時で不足分の修繕費用を回収する
  2. 資金が貯まるまで大規模修繕を見送る
  3. 大規模修繕の内容を練り直す
  4. 金融機関から借入をする

という4つのパターンが用いられることが多いです。どの方法を採用するかはケースにより異なるので一概には言えませんが、委員会や管理組合の意見に従って判断してください。

 

【マンションの大規模修繕費用に関するポイント】

  1. マンションの大規模修繕費は、平均で一戸あたり75~125万程度の負担となる
  2. マンションの大規模修繕は一括で請求で請求されるのではなく、修繕積立金として月々回収される

参考:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」

マンションの大規模修繕3つの事例

マンションの大規模修繕の基礎知識が把握できたところで、マンションの大規模修繕をどのように進めていくのか気になりますよね。ここでは、実際にマンションの大規模修繕を行った3つの事例をご紹介します。

「千葉県511戸マンション」前倒しにして大規模修繕を実施!

千葉県のマンションは初回の大規模修繕を築13年目に予定していました。しかし、2011年の東日本大震災時に外壁のタイルが落ちる、外壁にひびが入るなどの被害があったことから議論により計画を前倒しにして実施することに。

今後の大規模修繕計画を決める前であること、計画を前倒しにしたことから必要最低限の内容に絞り、一戸あたり81万程度の負担に抑えることに成功しました。

しかし、1回目を必要最低限の修繕とした分2回目以降は費用がかさむことを予測し、すぐに次の大規模修繕計画に取り掛かっています。修繕積立金の段階的な値上げを視野に入れて、検討しているとのこと。

「マンションで物事を変えるには、本当に時間を要する」と実感したことから、一度の大規模修繕で終わらせずに計画的進めている事例だと言えるでしょう。

「東京515戸マンション」早い段階から費用の不足を解消し予定通り大規模修繕へ

築1年目より委員会の理事長を務める應田さんは、1年目の段階で大規模修繕計画には28億円がかかると言われていたそうです。しかし、築2年目に見直しをしたところ32億円かかることが判明。これは玄関ポーチや駐車場などの共用部分が広く、詳細の見積もりを取ると予想外の費用がかかったことが原因です。

すぐに不足分の費用を埋めるために修繕積立金の値上げを検討すべく、住民に対する説明会を実施します。これだけでは不安が残るため2週間に1回のペースでかわら版も発行し、理解を求めました。

早い段階で修繕積立金の値上げに向けて動いたことで、築12年目に1回目の大規模修繕ができるように。住民への歩み寄りで費用の不足をカバーできた事例です。

6-3.「東京都794戸マンション」独自の大規模修繕戦略を住民と共有

東京都にあるこちらのマンションは、修繕積立金の10,000円アップに踏み切りました。その背景には独自で考案した「50年安心戦略五箇条」があります。

【50年安心戦略五箇条】

  1. 50年間の資金を確保する
  2. 今後の修繕積立金値上げは原則1回まで
  3. 費用、見積もりは保守的に行う
  4. 現在と将来の住民の負担を公平にする
  5. 「50年安心」という評価を市場に定着させる

従来は30年までの大規模修繕計画となっていましたが50年まで引き上げで見直し、長期的に安心して住める環境を目指す考え方に変更。

また、理事会が首都圏にある築30年以上のマンションを調査したところ、修繕積立金が潤沢なマンションのほうが高値を維持できていることも分かり資産価値を維持できるよう計画を練っているそうです。

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マンションの大規模修繕の流れ

マンションの大規模修繕をするときは

  1. 専門委員会の設置など検討体制を整える
  2. 管理組合や委員会をサポートする専門家を選出
  3. マンションの調査を実施
  4. 調査をもとに大規模修繕の計画を立てる
  5. マンションの住民に賛同を得る
  6. 大規模修繕を実施する

という6つのステップに沿って実施していきます。それぞれどのようなことを実施すべきか詳しくご紹介します。

7-1.検討体制の確立

大規模修繕の準備から工事完成までには、3~5年程度の時間が必要です。そのため、長期的に活動していけるようマンションの管理組合とは別に、専門委員会(修繕委員会や長期修繕計画委員会と呼ぶことが多い)を設置することが多いです。

委員会は管理組合の諮問機関として設置され、大規模修繕の内容や計画、調査や問題点など大規模修繕に関わることを専門的に行います。

管理組合 大規模修繕委員会
・マンションの住民で構成

・理事会を開催できる

・大規模修繕を実施する等の最終的な判断ができる

・マンションの住民で構成

・管理組合の諮問機関として設置

・管理組合の負担を減らすために、大規模修繕にかかわる業務を専門的に行う

国土交通大臣が公表した「マンションの管理の適正化に関する指針」では

1.マンションの管理の主体は、マンションの区分所有者等で構成される管理組合であり、管理組合はマンションの区分所有者等の意見が十分に反映されるよう、また、長期的な見通しを持って、適正な運営を行うことが重要である。(以下略) 

2.管理組合を構成するマンションの区分所有者等は、管理組合の一員としての役割を十分認識して、管理組合の運営に関心を持ち、積極的に参加する等その役割を適切に果たすよう努める必要がある。

引用:「マンションの管理の適正化に関する指針」

と記載されているため、マンションの住民が主体となり大規模修繕を進めていくことが重要です。

7-2.専門家の選定

マンション内で大規模修繕を進めていける体制ができたら、次は管理組合のサポートをしてくれる専門家を選定する必要があります。

選定方法としては、主に下記の3つの方法があります。

選定方法 特徴 ポイント
設計管理方式 調査と工事方法のサポート業務と実際の施工業務を別会社に依頼する方法 施工と調査の依頼先が分かれているため、客観的な視点で必要な工事を見極められる
責任施工方式 調査から資金計画、施工まで一貫して任せる方法 全過程同じ業者に依頼するので、管理組合の手間が省ける
管理会社発注方式 マンションの管理をしている管理会社に委託する方法 管理会社と良好な関係の場合、信頼して任せられる

管理会社と管理組合の意思疎通ができている場合は、「管理会社発注方式」を選択することが多いです。中立的な立場で業者選定をしてもらえるだけでなく、施工後に不備があった場合でも連絡しやすくなっています。

調査から施工で一貫して任せたい場合は「責任施工方式」を選択します。全て同じ業者に依頼するため管理組合の手間は少ないですが、その分費用や計画の不備に気付きにくいところがデメリットです。

一方で、客観的な視点を入れるなら「設計管理方式」を選びましょう。管理組合の手間はかかりますが調査と施工業者が別になるため、見積もりの水増しや手抜き工事などが発生しにくくなります。このように、3つの方法から向いている方式を採用して専門家を揃えていきます。

【知人の紹介やコストだけで専門業者を選定しない】

マンションの規模や修繕範囲にもよりますが、一度の大規模修繕で数千万~数十億かかることはよくある話です。だからこそ、失敗をすることなく住民から集めた資金を有意義に活用できるよう慎重に検討しなければなりません。

  • 知人から紹介で業者を決める
  • 安い業者を選定する
  • 短期間で業者を決めてしまう

というのは、手抜き工事や欠陥工事に繋がる可能性があります。コストや選びやすさのみをを重視しないよう、時間をかけて決めるようにしましょう。

7-3.大規模修繕をするための調査を実施する

大規模修繕の規模やどのような修繕が必要となるのかは、マンションによって大きく異なります。そのため専門家による調査を実施し、現状の劣化や損傷の程度、不具合点や問題点、マンションの性能などを正確に把握します。

できれば現状をマンションの住民と共有をして、大規模修繕をやらなければならないという気持ちを維持することが大切です。

7-4.大規模修繕の計画を立てる

大規模修繕に向けての調査結果を把握した上で、目前の大規模修繕にはどのような内容を盛り込むのか、2回目、3回目の大規模修繕はどのくらいの規模になりそうか長期的な計画を立てていきます。

委員会や管理組合だけでなく専門家を交えながら

  • 大規模修繕の優先順位(大規模修繕の内容)
  • 具体的なコスト
  • 長期的な修繕計画
  • 大規模修繕の時期

を決めていきます。

このときに、マンションの住民とも意見交換をしながら、改善ニーズや現状設備で困っていることにも耳を傾けるようにしましょう。

7-5.集会で賛同を得る

大規模修繕の最終的な決定は、管理組合の集会における決議で行います。大規模修繕などの重大な変更は議決権の4分の3以上の賛成が必要です。(定数は管理規約でその過半数にまで減じることができます)

4分の3以上の賛成を得るには、資金や計画内容が重要な要となります。不十分な説明ではなかなか納得してもらえず、思ったように大規模修繕が進まないことがあるので、大規模修繕の計画を立てる段階から住民に理解をしてもらえるよう務めることが大切です。

7-6.大規模修繕の実施

大規模修繕の賛同が得られたら、大規模修繕が実施できるよう本格的に動いていきます。工事請負契約書などを締結し具体的なスケージュールが決定したら、住民に向けて工事説明会を実施して注意事項など共有するようにしましょう。

工事期間中も管理組合と施工業者との報告会を定期的に開催し、工事がどのように進んでいるのか把握できるようにしておくことが大切です。

また、大規模修繕は一度実施をしたら終わりではないため、次の大規模修繕に向けても動き始める必要もあります。

参考:国土交通省「マンション管理の基本と改修による再生の重要性」

マンションの大規模修繕のトラブル事例3選

大規模修繕を実施するときには、思わぬトラブルが発生することがあります。ここでは、大規模修繕のトラブルで多い

  • 大規模修繕費の費用のトラブル
  • 工事中の騒音やホコリ、臭いのトラブル
  • セキュリティやプライバシー保護に関するトラブル

の3つをご紹介します。

8-1.割高工事でのトラブルが発生

国土交通省は、管理組合が割高な大規模修繕契約を結ばせるケースが報告されていると注意を呼びかけています。

とくに多い手口は、調査や長期計画を立てるコンサルティング料が格安のパターンです。まずは安いコンサル料で受託し、バックマージンを支払ってくれる施工業者が受注できるよう工作。

その後割高な工事費や多様な工事項目の発注へと誘導し、気が付けば割高な工事費用を支払うことになっている事例も挙がっています。

2010年ごろから契約の入り口となるコンサルティング料を下げて、工事代を上乗せするというケースが増えているとのこと。専門家や施工業者を選定するときには価格のみで判断せず、細かな内訳を提示してもらいながら慎重に判断することが大切です。

8-2.工事中の騒音やホコリ、臭いによるトラブル

大規模修繕がスタートすると、工事内容によっては住民の生活に支障が出ることがあります。とくに、住人からのクレームで多いのは下記のような内容です。

  • 工事中の騒音が気になる
  • 解体作業や修繕作業のときにホコリが舞う
  • 外壁の塗装などをするときに臭いが気になる
  • バルコニーの修繕をする場合、洗濯が干せない
  • 水道やガスが使えない日時がある

工事内容により騒音や臭い、ホコリが舞うなど住民に迷惑をかけることは避けられません。住民と管理組合の間でトラブルにならないよう、事前にどのような工事をいつ実施するのか説明することが大切です。大規模修繕実施の際には、説明会を開いたりポスターやチラシでスケージュールを告知したりするケースが多いので、ぜひ検討してみてください。

8-3.プライバシーの保護やセキュリティ対策のトラブル

プライバシーの保護やセキュリティ対策も、大規模修繕でトラブルになりやすい部分です。

マンションの室内はプライベートな空間なので、外壁や窓ガラス、廊下などの修繕をする際に「部屋の中を覗かれている気がする」とクレームになることがあります。

また、ふだんはマンションの住人しか出入りをしない環境の中で、工事関係者や調査関係者が頻繫に出入りをしているとセキュリティに不安を覚える住民がいるという声も。

どちらも大規模修繕を進める上で避けては通れないことなので

  • 工事内容と時期を事前に告知する
  • 大規模修繕関係者はネームプレートや腕章をつける

などの対策を取り入れるようにしましょう。

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知らなかったとならないために!押さえておきたい大規模修繕の4つ対処法

大規模修繕の話が進んでいくと「こんなはすではなかったのに」と悩むことがあるかもしれません。そこで最後に、大規模修繕が始まる前から実施中まで知っておきたい対処法をまとめてご紹介します。

9-1.大規模修繕費はマンション契約時に確認をする

マンションに住んでから「修繕積立金が高い」と驚かないためにも、マンションの契約時に修繕積立金は毎月いくらかかるのか確認するようにしましょう。そのときにただ月額負担額を把握するのではなく、

  • 修繕積立金が数年後に値上がりすることはないか(マンションによっては段階的な値上げを導入している)
  • 次の大規模修繕はいつを予定しているか
  • 次回の大規模修繕の内容は?

という3つのポイントもチェックしておくと安心できます。とくに、修繕積立金は入居後段階的に値上げをする方式を取っている万所は多いので、固定型なのか変動型なのかは把握しておくようにしましょう。

9-2.大規模修繕計画に不満がある場合は委員会等で発言する

先ほども紹介したように、大規模修繕の実施を決定するには議決権の4分の3以上の賛成が必要となります。大多数の住民の同意が得られないと実施することが難しくなるため、管理組合や委員会、住民との間で意見交換できる場を設けてくれることが多いです。

「資金繰りが不透明」「大規模修繕の内容に満足できない」など大規模修繕計画に不満がある場合は、委員会や説明会で発言ができます。

納得のいかないまま鵜呑みにしてしまうと、そのまま大規模修繕が進む可能性もあります。修繕積立金を有意義に活用し快適な暮らしを維持するためにも、意見が言える場所があることを把握しておきましょう。

9-3.大規模修繕を実施することでどのような支障が出るのか把握しておく

大規模修繕はマンションにより、実施内容が大きく異なります。完了までに3~4年かかるケースや一度仮住まいに引っ越すケースもあり「すぐに終わるだろう」と構えていると、後に不便な日々が続いて後悔することも。

大規模修繕が実施されると決まったら

  • どれくらいの期間かかるのか
  • 生活にどのような支障が出るのか
  • 工事内容や使用の制限が出る設備の把握

をするようにすることが大切です。委員会や管理組合のスタッフは説明会やホームページ、掲示板の告知などで確認できるようにして、速い段階からチェックできる環境を整えましょう。

9-4.大規模修繕工事中の状況も確認する

工事がスタートしてからはそのまま放置せず、管理組合や委員会のスタッフは施工業者との報告会を定期的に開催しましょう。

計画通り進んでいるのか、問題点はないかを確認し、逐一住民に報告をすることでスムーズに進行できます。また、現状をこまめに確認することで手抜き工事などの予防にも繋がるので、できる限り工事中の様子にも目を光らせてみてください。

まとめ

いかがでしたか?

マンションの大規模修繕とはどのようなものか把握でき、実際に実施をするイメージも掴めたかと思います。最後にこの記事の内容をまとめてみると

■大規模修繕とは、マンションの初期機能を維持するために実施する修繕のこと

■大規模修繕が必要な理由は次の3つ

1.いつまでも快適な住環境を維持する
2.住民や近隣住民の安全性を確保する
3.マンションの資産価値の低下を防ぐ

■マンションの大規模修繕は11~15年に一度の周期で実施することが多く、一度実施しても2回目、 3回目と必要に応じて続いていく
■1回のマンション大規模修繕には、一戸当たり75~125万ほどかかることが多い
■大規模修繕に必要な資金は「修繕積立金」として、毎月決まった額を回収ケースが多い
■マンションの大規模修繕の主な実施内容は次の16項目

実施場所 実施内容
屋根 屋上や屋根、バルコニー屋根の防水
階段や共用部分の床、バルコニーの床の修繕
外壁 外壁の塗り替えやタイル補修

シーリングやコンクリートの補修

鉄部 廊下や階段、バルコニーの手すり

共有部分のドアやサッシ等

建具・金物等 廊下や階段、バルコニーの手すり

共用部分のドアやサッシ等

郵便受けや掲示板などの設備

共用内部 管理人室や共用廊下
給水設備 屋内共用給水管や給水ポンプ等 
排水設備 屋内共用雑排水管や排水ポンプ等
ガス設備 屋外埋設部ガス管や屋内共用ガス管
空調・換気設備 共用部分のエアコンや換気口等
電灯設備 共用廊下等の照明器具や配線器具、非常照明等

太陽光発電設備

情報・通信設備 電話やテレビ、インターネット設備
消防用設備 消火栓ポンプや 消火管、ホース等

放水口や火災感知器等

昇降機設備 昇降機の設置や修繕
外構・附帯設備 ゴミ置き場や駐輪場、歩道、平面駐車場等
機械式駐車場 機械式駐車場の修繕

■マンションの大規模修繕は次の6ステップに沿って実施する

1.専門委員会の設置など検討体制を整える
2.管理組合や委員会をサポートする専門家を選出
3.マンションの現状を把握するため調査を実施
4.調査をもとに大規模修繕の計画を立てる
5.マンションの住民に賛同を得る
6.大規模修繕を実施する

■マンションの大規模修繕のトラブルで多いのは次の3つ

1.大規模修繕費の費用のトラブル
2.工事中の騒音やホコリ、臭いのトラブル
3.セキュリティやプライバシー保護に関するトラブル

■知っておきたい大規模修繕の対処法は次の4つ

1.大規模修繕にかかる費用はマンションの契約時に確認する
2.大規模修繕計画に不満がある場合は委員会や説明会で発言できる
3.大規模修繕を実施することで、どのような不便があるのかあらかじめ把握しておく
4.工事中の様子もしっかり把握しておく

この記事をもとに、納得のいく状態で大規模修繕が実施できるようになることを願っています。

 

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