Paddingtonの住む街に<br>魅せられて

STORIES No.002

Paddingtonの住む街に
魅せられて

求めていた世界観

ロンドン!
そのメッセージをSさんは映画「パディントン」から受け取った。
「友人に誘われてロンドン旅行をすることになり、舞台がロンドンだというので見てみたら、もう……」
もう、たまらなく好きになった。

ハッピーなストーリーはもちろんだが、パディントンの住むロンドンの街──建物、通り、家や店のインテリア、ファッション、雑貨──、「すべてが私好みで、求めていた世界観がここにあったと思いました」

現実のロンドンもSさんの期待を裏切らず、素晴らしかった。しかし、映画のファンタジーはロンドンの魅力をさらに煮詰めて昇華し、完璧な形で見せてくれる。帰国して「パディントン」を観直すたびにハマっていったそうだ。

壁の色は
絶対グリーンに

マンションリノベでその世界観を再現したいと望んだのは当然だろう。70年代の和室3室+LDKの間取りを1LDK+ウォークインクロゼットに変え、個室(寝室)とクロゼットは最小限に抑えてリビングをうんと広くする。
そして、絶対なのは壁の色。
「パディントンの映画にあったテールグリーンです」
床は節の粗いオークで、窓には重厚なカーテンを……。
Sさんにはリノベの打ち合わせ当初から、つくった部屋がお気に入りの家具や雑貨で彩られ、my little Londonになっていく様が想像できていた。

グラニースクエアのクッションはSさんのお手製。
キッチン腰壁のトルコタイルもDIYで

ごちゃっとしていて、
美しい

「簡単にいうと、ごちゃっとしてるのが好きなんです(笑)」
映画でも、いちばん好きな空間はグルーバーさんのアンティークショップだ。いわくありげな骨董品がところ狭しと並び、どれも素敵で、何時間でもいられそう。
「もともとクラシカルなテイストが好みでしたし、イギリス以外にもいろいろな国から集められた物がただどっさり置いてある、あの感じがツボで」

ソファやカップボードなど、今ある家具はほとんどこの部屋に合わせて新調している。収納棚はもちろんオープンで、紅茶の缶やお菓子の缶、瓶、ドライフラワー、アートフレームなどがずらり。
「望んでいる“ごちゃごちゃ”にはまだ程遠いのですが、お気に入りしか置きたくなくて」

ごちゃごちゃが素敵な理由がここにある。
「使い捨ては性に合わなくて、買うときにすごく吟味するんです。10年後、20年後に置いておけるか、使えるか、じっくり考えますね」
古い物に価値を置くロンドンの精神と通じているといえそうだ。

ちなみに、中古リノベを選んだのは新築マンションの明るさが少々苦手だったから。リビングにある2つの掃き出し窓にボルドーのたっぷりしたカーテンを選んだのも、「全てが光の下に晒されるより、薄暗がりの密やかさを愛する」からだ。これもロンドンのお屋敷めいている。

お気に入りの品々はアンティークふうの家具に収めて

終点がないから
楽しい

リノベーションした家で、Sさんは編みものを始めた。グラニースクエアやレースを編んで、クッションカバーやテーブルセンターに仕上げる。編み目を数えるのに集中して、無心になれるのがいいのだという。
ハンドメイドの温かさは、今やSさんの世界になくてはならないものだ。
「家やインテリアを“こうしたい”という確かな思いは最初からあって、今もブレることはありません。その完成形を目指して、物を見たり、つくったりしているわけですが、でも、終点がないような気もしています」

聞き手 : 今井 早智 Sachi Imai

住宅について、建築的なHOWよりも施主の暮らしのWHYに興味あり。空を飛べる鳥になりたいとは思わないが、海に沈む深海魚には憧れる。

写真 : 上米良 未来 Miki Kanmera

撮る動機、その原点は、正真正銘キライだった同級生の悪ガキが見せたとびきりの笑顔=喜びの表情に衝撃を受けたこと。好きなものは、編みもの。猫。トマトの匂い。