猫と植物がいる風景

STORIES No.004

猫と植物がいる風景

ツンデレな猫と
奇抜な塊根植物

2匹の愛猫は「キルア」と「ゴン」。かまってやろうとすると脇をすり抜けて行くくせに、書斎でパソコンに向かっていると、膝の上に乗って甘えてくる。
「いわゆるツンデレで、わかっていてもたまりません(笑)」

キルアはwebで見た子猫の姿のポートレートにキュン死してブリーダーから譲り受け、ゴンは手の平に乗るサイズの保護猫だったのを引き取った。
今や2匹とも妙齢だが、仕草がいちいち愛らしくて、暮らすほどにゾッコンになる。

植物はもっぱら熱帯系。この数年いろいろな鉢植えを育ててきた末に、奇抜でもあり美しくもある姿態が魅力の塊根植物にたどり着いた。根や茎が水分を蓄えて肥大して、こんな形になるという。

「枝の数や長さ、根の膨らみ方など一つ一つ違っていて、これだと思ったフォルムのものを見つけて育てます。盆栽を愛でる感覚に近いかもしれませんね」

ロシアンブルーのキルア

保護猫のゴン

お気に入りのパキポディウムグラキリス

背景を整えれば
環境が整う

生き物との暮らしを楽しむHさんだが、世話好きというわけではない。「猫と植物が好き」であると同時に、「猫のいる風景、植物のある風景も好き」なのだ。

だからリノベーションでは、彼らのためにとっておきの居場所を用意した。
例えば、猫にはキャットウォーク。窓枠を兼ねてつくっており、インテリアとしても調和する。寝室には猫用ドアも。
植物にはインナーガーデン。最も日当たりが良い場所に確保し、寝室や浴室からも眺められるようにした。玄関を入ってすぐの造作ベンチには、主の帰宅を待つかのようなグリーンの寄せ植え。

背景を整えれば、主役である猫や植物はいっそう輝く。
「それは結局、猫にとって、植物にとってより良い環境を整えるということで、同居するパートナーの居心地を思いやるのと同じです」

キャットステップ(上)から窓枠を利用したキャットウォーク(下)へ

多肉植物の寄せ植えは自らアレンジ。周囲のライトの演出が効いている

たくさんの
好奇心に呼ばれて 

Hさんにはそもそも、猫と植物以外にも好きなものがたくさんある。
陶芸が好き。アートが好き。家具が好き。マンガが好き。DIYが好き、ピアノが好き‥‥。
まだいくらでも挙げられる「好き」の全てを、Hさんは今回のリノベーションに持ち込んだ。

78㎡もの広さのマンションを、ワンルーム感覚で使える仕様に。リビングの一角にガラス張りの寝室やインナーテラスをコーナーとして設け、連続しつつ変化する空間展開を楽しんでいる。
空間を構成するのは、Hさんがビジュアルにこだわって選んだお気に入りのものたちだ。

「まず、好奇心。それから追究です」
Hさんの興味の広さと深さを物語るこの言葉。気になったものは何でも調べ、調べ始めると半端なことでは気が済まない。そうして選んだひとつひとつのものに宿るそれはもう、「センス」というより「審美眼」?

玄関には一目惚れしたカネコタカナオさんのポップアート

猫のフードボールや植物の鉢など陶芸作品がたくさん

思いがけない
風景を求めて

ただし、Hさんが求める美しさには基準がある。
「機能性も満たしていることが条件です。特に家や、家に置くものはそうですね。見た目は何よりも重視しますが、かといって、使いづらいものは選びません。面倒くさがりでもあるんですよ」

ラクに、気持ちよく、毎日を過ごす。そのためには動線が効率的でなくてはならないし、気に入らないものが視界に入ってはならない。それらを徹底させたときに初めて、「リラックス」が生まれるのだとか。
「逆にいえば、リラックスしたいから好きなものや風景にこだわるんです」

さりげないようでいて計算されたものの配置や内装の素材感。そんな住まいの空間を、猫は自由気ままに動き回る。塊根植物も表情を変え、休眠期の冬は色がやや褪せ、春には小さく可憐な花をつける。
「生き物である猫と植物は配置して終わりではなく、思い通りにいきません。でも、だからこそ描き出される風景がいつも新鮮で、ますます楽しみになるんですね」

フォトジェニックなHさんの家を、猫と植物がさらに生き生きと躍動させる。その効果をいちばんわかって上手く活かしているのはHさん自身だ。

聞き手 : 今井 早智 Sachi Imai

住宅について、建築的なHOWよりも施主の暮らしのWHY に興味あり。空を飛べる鳥になりたいとは思わないが、海に 沈む深海魚には憧れる。

写真 : 岩崎 真平 Shinpei Iwazaki

現場でのコミュニケーションを大切に、さまざまなジャンルの被写体を撮影。魅力を引き出す努力に人とモノの区別はなく、撮影商品に話しかけることしばしば