更新:2023.01.24 公開:2022.08.23

[つぎのくらしは]vol.4 シングルで家を買うと決めたワケ

つぎのくらしは リビングの風景

どこに住む? どう暮らす?
心豊かな時が流れる
「つぎのくらし」の見つけ方

【今回、登場するのは…】

小林夕里子さん

- profile -
大学卒業後、インテリア商社に就職。退職後、インテリアコーディネーターの資格を取得し、北欧家具店を経て、イデーに入社。現在、ビジュアルマーチャンダイザーとして、全国の店舗ディスプレイ監修や講師などを務める。著書に『暮らしを愉しむお片づけ』(すばる舎)
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“始まりは『赤毛のアン』でした

空想好きな主人公が夢見る部屋の描写にワクワクしながら、『赤毛のアン』を繰り返し読む少女だった小林夕里子さん。「子ども部屋をもらってからは模様替えに夢中。物や机の配置を考えるのが楽しくて仕方がありませんでした」

今では店舗ディスプレイの監修や講師としても活躍するインテリアのプロだが、意外にも「私は“場所見知り”」だと話す。

「新しい空間に慣れるまで、時間がかかるんです。初めての一人暮らしでは、お風呂が古くて苦手でした。でもそこにお気に入りのボディスポンジを飾ってみたら、とたんにその場所が好きになりました。それでハッとしたんです。好きな物がそこにあるだけで暮らしが変わるんだ、って」

小林夕里子さんのインタビューカット
ダイニング
インテリアのベースとなる壁・天井は白。「雑貨やアンティーク家具を主役にするには、シンプルな空間がベストなんです」

 “シングルで家を買うなんて”  

それから4回の引っ越しを経て、更新を機により良い賃貸物件を探していた小林さん。なかなか気に入った部屋が見つからないと友人にこぼすと、サラッと言われた。「買っちゃいなよー」。中古マンションを買ってリノベをした経験からのアドバイスとはいえ、急な振りに戸惑った。

自分がいつまで働けるのか、ひとりでローンを払っていけるのかもわからない。先のことやお金のことを考えていくと、頭をよぎる。「シングルで家を買うなんて」

実感をもてずにいたら、友人がズバッと言った。「何かあったら、売ればいいんだよ」。その言葉は小林さんにとって、真っ白な壁だと思っていたところに現れた隠し扉。反射的にドアノブへ手をかけた。「そうか、売ればいいのか!」

ワークスペースのデスク
デスクには手を上げて応援してくれる “オジサン”が鎮座。考えごとや在宅ワークをするときの頼もしい味方だ

ワークスペースとリビング
デスク側は赤茶系、リビング側は爽やか系にと、テイストが異なる「物の居場所」をパーテーションで緩やかに分離

 “家賃の総額にゾッとした”  

思えば世の中には、中古物件を買ってリノベしながら何回も住み替える人がいる。頭の片隅にあったそんな情報が、急に自分事として輪郭をもち始めた。早速、ネットで住宅ローンをシミュレーションしてみると、パソコンに現れたのはリアルな数字。「私にも買える」。扉が大きく開いた瞬間だった。

「同時にゾッとしました。今まで払ってきた家賃の総額も計算してみて、こんなに捨ててきたんだと。頭金にできたじゃん!もっと早く買えばよかった!って思いました。

考えてみたら、いつまで働けるのかどうかは、買うのも賃貸も同じこと。何かあったときに売れる物件なら、それはマイナス要素になりません。お金の使い方を考えるいい機会になりました」

アロマのインテリア
書斎のインテリア
気分に合わせてポプリに精油をひとしずく。ブックラックの本もその時々で入れ替わる。自分時間を大切にできる空間だ

 “古い家を直して住む。北欧の暮らしに驚いて”  

建物が古いこと。リノベすること。それらに抵抗がある人もいるが、小林さんにとって「家を買う」が「中古リノベ」につながったのは自然なことだった。

ターニングポイントは約20年前、北欧家具店に勤めていた前職のころまでさかのぼる。休暇を利用してデンマークに行ったときのこと。ホームステイ先は、自分たちで手直ししながら代々住み継いできた築100年以上の一軒家だった。

はじめて買った北欧家具
チェストは初めての一人暮らしで最初に買った家具。ホームステイ先で譲り受けたスタンドライトを置いて

「暖炉でも床でも、壊れていたら自分で修理するのが当たり前。そんな暮らし方があるんだと、すごく驚いて。彼らを見ているうちに気づいたんです。今までの自分は北欧のデザインが好きだなとは思っていたけれど、その先にある暮らしのことまでイメージできていなかったことに」

帰国するころには、興味の対象がデザインから暮らし方へと広がっていた。「早速、自分でもDIYを始めました。ベニヤ板と床材を買って張って塗装して。賃貸の和室を洋室に変えました。好きな物に触れているだけではなく、暮らし目線で物と空間に向き合いたくなったのです」

DIYの工具
工具をひと通りそろえ、DIYはいつでもOK。キッチンのキャスター付き隙間収納も小林さんの作品

 “売却とリノベを視野に物件探し”

中古リノベを決めてからは早かった。物件検索サイトで探した条件は、静かな住宅街。40㎡以上。日当たり良好。将来的な売却の可能性も考えて、建物は新耐震基準で最寄駅から徒歩7分以内の立地であること。

バルコニー側の風景
ワイドスパンの開口がLDKにたっぷりの光をもたらす。周囲の建物が気になることなく、遠くまで視界が抜けている

検索結果の中で第1希望だったのが、今、住んでいる物件だ。念のため、第2希望も内見したけれど、比較にならなかったそう。「もう一つはここより新しく、90年代に建てられたマンション。内装もまあまあキレイでしたが、好みではありませんでした。

そもそも中身を全部変える予定だったので、リノベされていない物件がほしかったんです。だからキレイである必要はなくて。今の物件はそこより400万円ほど安く、梁が少なく天井が高い。窓の前が抜けていて空が大きく見える。広さはほぼ同じでしたから、古くても断然こっちでした」

寝室
ウォークインクローゼット
寝室と大きなWICは、洋室とダイニングキッチンだったスペースを大胆に取り込んで実現させた。全面的に間取りを見直したからこそのレイアウト

 “自分の城が欲しかった” 

壁、床、棚など、DIYを駆使して自宅を好みに近づけてきた小林さんだが、「賃貸では思うようにやり切れない」というくすぶりを抱えていた。

「実はずっと、自分の思い通りにできる空間を求めていました。好きで集めているアートなどを、ちゃんと飾れていないのが申し訳ないという気持ちも強くて。でもリノベなら『物が心地よくいられる場所』をつくれると思いました」

ダイニングのインテリア
大きな絵から小さなオブジェまで全て愛着があるが、中でもすぐ「迎えてしまいがち」なのが「顔のある物」。よく見ると器、置物、壁掛けなどに愛嬌のある表情が

リビングのインテリア
薪のような無垢材を使ったシェルフは、木のフレームを背景にしたパーテーションの前がピッタリの「居場所」

リノベ後の新居のために新しく買ったのは、ダイニングテーブルとチェア2脚だけ。他の家具や物は、大事に付き合ってきた家族のような存在だ。どこにどう置いたら「居心地がいい」のか考えて、最適な配置を見つけ、必要な空間の寸法を割り出し、間取りを手描き図面にまとめた。

「おかげで指定通りにリノベしてもらえて、やっとすべての物をちゃんと飾ってあげられました。5年経ってもこの家にものすごく愛着を感じます」

洗面室
寝室の壁
各室に施したグレーやグリーンのアクセントウォールは小林さん自ら塗装。洗面室はタイル張りまで行った。寝室の壁には、あまり塗料でいたずら書きをした白いボードを飾って

 “想定外の変化も楽しんで”  

「不思議なことに、ここに住んでからいいことしかない」と晴れやかな表情を見せる小林さん。対面キッチンで友人たちとワイワイできるようになった。東向きのダイニングで、気持ち良い目覚めと朝ご飯のおいしさを感じるようになった。空間にゆとりができてグリーンを育てる気になった——。

暮らしのさまざまな変化の中でも、結婚は予想外だったとはにかむ。「縁あってここで一緒に住むことになりました」。増えた物はトランクルームを利用して快適な住環境をキープしている。

「住むほど愛着がわくので離れがたいのですが、実は今、もう少し広いマンションを探しています。もちろん中古リノベで!ここは売却しやすいから次の暮らしを考えやすいんです」

キッチン
ワークスペースの棚
器のギャラリーに勤める彼に影響されて、つい器を買ってしまったり、彼の趣味の壺を並べたり。トランクルームの物と入れ替えて模様替えするのも楽しめるように

暮らしを慈しむ。そんな言葉が似合う彼女が、家を買うときに大事にしたことは?

「自分の軸がブレないこと。私は、物の居場所や人を呼ぶ暮らしなど、大切なことが明確だったので、物件もリノベのプランもすぐ決められました。

これから家を買う人も、考えてみてはいかがでしょう。リノベした家でどういう暮らしをしたいのか。何をしているときがいちばん楽しいのか。自分の軸を見つけてブレずに進めることが、自分らしいリノベの近道のような気がします」

撮影/古末拓也


間取り図

ー DATA ー
物件竣工/1987年

リノベーション竣工/2017年
専有面積/48.60㎡
専有リノベーション面積/48.60㎡
家族構成/小林夕里子さん(45歳)、夫(42歳)



【 聞き手 】
樋口由香里
雑誌、書籍、広告の編集・執筆を行う。住宅に関わって20年。「住まいを考えることは暮らしを考えること」だから、この先の生き方や家族の関わりを見つめ直す機会にしてほしいと願う

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