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[監修] 宅地建物取引士
鰭沼 悟
宅地建物取引士、不動産投資家歴15年、元銀行員。「無理のない予算」で「人生がより豊かになる住まい」を実現するリノベーション専門の不動産売買仲介スペシャリスト。
不動産物件を購入する際には「買付証明書(買付申込書)」を提出する必要があります。「買付」の「証明」と言う言葉のイメージから、購入を約束するものいうイメージが湧きますが、実際はそうではありません。
買付証明書は「キャンセルできるもの」という知識があれば、気に入った物件をみすみす逃す事態も防げます。
そこで、ここではそもそも買付証明書が何のために必要でどんな効力を持つものなのか、詳しく解説します。
買付証明書(買付申込書)とは
1-1.法的な効力はあるの?
【相談者】
中古マンション購入のためにいろいろ物件を見ているところです。内覧で気に入った物件があったので購入を考えていて、不動産会社から「買付証明書」を提出するように言われました。この「買付証明書」、一度提出したら絶対に購入しなきゃいけないんですか?
【アドバイザー】
結論から言えば、買付証明書に法的な効力はありません。買付申込書や購入申込書といった言い方もしますが、いずれの場合も同じです。
【相談者】
そうなんですね!実はまだ確認したいことや予算で悩んでいることがあって、キャンセルできなかったらどうしようと思っていたんです。
【アドバイザー】
買付証明書を提出した時点では、A子さんが売り主に対して「気に入っているので問題がなければこの物件を購入したい」という意思を伝えているだけということになります。
「売買契約の成立」とは別なので、キャンセルしたからといって違法でもなんでもありませんし、特にペナルティもありません。
提出時に申込金を支払うケースもありますが、キャンセル後は返金されます。
【相談者】
なーんだ。じゃあ、気になる物件があったらどんどん買付証明書を出せばいいんですか?
【アドバイザー】
いえいえ。法的拘束力が無いといっても、「購入意思」はあることが前提の書類です。
- 購入予定金額
- 契約予定日
- 手付金の金額
- 引き渡し予定日
- 住宅ローン利用の有無、金額
上記のような具体的な情報を記入する必要がありますし、売り手も購入意思が高いものとして話を進めます。仮押さえのような感覚で、いくつもの物件に対して買付証明書を出すのは控えるべきでしょう。ひとつの物件に対してのみ出すべきです。
【相談者】
なるほど、キャンセルはできるけど、ほとんど買うつもりで提出するものなんですね。
1-2.売買契約書との違い
【相談者】
でも、買付証明書とか購入申込書とか、いろいろな呼び方があってややこしいですね。
【アドバイザー】
先程も説明したとおり、買付証明書と購入申込書は仲介業者によって使用している名前が違うだけで、同じものです。
ただ、似たような名前でも「売買契約書」は全く違うものなので気をつけてください。
【相談者】
売買契約書ということは、実際に売買契約をするときに交わす書類ですか?
【アドバイザー】
はい。法定上は、売買契約そのものは口約束でも取り交わすことはできます。ですが不動産は高額な財産ですから、書面で契約内容を決めるのが通例です。それが売買契約書ということです。
売買契約書には、それこそ契約解除した際の手付金の扱いや違約金の支払い、物件に何らかの問題が発覚した際の瑕疵担保責任になどについても記載されていますから、内容はしっかり把握しておく必要があります。
【相談者】
わかりました!
買付証明書(買付申込書)はなんのために出すの?
【相談者】
でも、法的拘束力もなくて、実際の契約内容は売買契約書で取り決めるなら、買付証明書はなんのために提出するんですか?
【アドバイザー】
一番の目的は、誰が一番最初にその物件に対して購入意思を見せたのかを、売り手側がしっかり管理しておくためです。
二番目の目的は、購入したいと思っているので、物件についていろいろと情報を出して欲しいという意味合いがあります。売主側の中には購入意思も見せない人には、情報提供はしませんという人もいらっしゃいます。
【相談者】
そんなに大勢の人が一つの物件を狙うことがあるんですか?
【アドバイザー】
たとえばポータルサイトに掲載されている物件なら、あなたと同じく自分たちの住まいとして物件探しをしている人たちが見ていますよね。それだけでなく、不動産会社や海外の投資家が目をつけている可能性もあります。
【相談者】
業者や投資目的の人たちも見ているんですね。
【アドバイザー】
そんな中で、「自分が最初にこの物件に目をつけたんだ」と口で主張しても、ほかの誰かが「いや、私が一番最初だ」と言えば実際のところはわからなくなってしまいます。
特に人気の物件であれば購入希望者が複数人現れるため、口頭の問い合わせでは混乱が起きます。だから、きちんと誰が最初に手を挙げたのか、買付証明書で管理するようにしているんです。
買付証明書(買付申込書)の出し遅れで逃してしまうことも
【相談者】
ということは、物件は買付証明書を出したもの勝ちで購入できるものなんですか?
【アドバイザー】
物件は買付証明書の提出順、もしくは抽選、また現金によっての購入者のいるいないによって決まることもあるため、厳密には「早いもの勝ち」ともいえませんが、住宅ローンを使う購入者同士の場合に限れば「早いもの勝ち」というケースは一般的です。
先程も説明したように、条件の良い物件であれば購入希望者が殺到して、競争率が格段に上がってしまいます。不動産会社や投資家は一般の方のように内見はせず、条件のみをWebで見て申し込むこともあるほどです。
【相談者】
そう聞くと本当にうかうかしてられないですね。
【アドバイザー】
不動産会社が「早くしないと売れてしまう」と契約を急かすイメージがあるかもしれませんが、あれこれ迷っている間に売れてしまったということは実際にあるんです。
実際、ゼロリノベでもタッチの差で買付証明書を出すのが遅れ、悔しい思いをするお客様は後を絶ちません。
【ケース1】価格交渉中に買われてしまった
神奈川方面の人気エリアで物件を探していたOさんご夫婦。自分たちの希望する条件で1〜5番まで優先順位をつけて物件の内件をしていました。5番目4番目は眺望や立地などの理由で断念。順番に見ていき、1番の物件を見ると、想定していたよりも抜群によい物件でした。
しかしその物件は、自分たちが決めていた予算よりも50万円ほど高い物件でした。そこが気になり、売主に価格交渉を持ちかけてから数日ご夫婦で考えた結果、やはりどうしてもほしい物件だということで、価格交渉を取りやめ、満額で申し込みをしましたが、その数日の間に別の方が満額で申し込みをして購入されてしまった後でした。
そこから新たに物件を探して別の物件の購入ができましたが、気持ちの整理や希望の物件が出ないなどの理由で、購入までに数ヶ月が必要となり、家賃の出費が増える結果となりました。
【ケース2】悩んでるあいだに買われてしまった
世田谷方面で物件を探していたKさんご家族。自分たちの希望していた条件に当てはまる物件を見つけ、さっそく内見に。周辺環境や街の雰囲気も思っていたよりもよく、物件自体も問題がありませんでした。
しかし、物件を探し始めてすぐに条件に当てはある物件を見つけてしまったため、「これで決めてしまっていいのだろうか?他にもあるんじゃないだろうか?」と、他の物件の内見もし、その上でやはり最初の物件にしようと決意したときには他の方に買われてしまった後でした。Kさんご家族は現在他のエリアで物件を探している最中です。
【相談者】
気に入ったら即買付証明書を提出したほうがよさそう。
【アドバイザー】
前述したように、複数の物件にいくつも申し込んだり、冷やかしで買付証明書を出すのは売り主や不動産会社にとって迷惑ですからやめておきましょう。
一方で、「これぞ」と思う物件に関しては、逃すと後悔が大きくなります。買付証明書を提出すればより詳しい物件情報がわかります。むしろ買付証明を出さないと購入意思のない人には情報提供しませんという売主側は存在します。
ピンときた物件があれば問題が見つからない限りは購入するつもりで、なるべく早く申し込むことをおすすめします。
まとめ
買付証明書は、買い手側が売り主に対して購入意思を示すためのものです。法的拘束力は無いため、買付証明書を提出した後に購入を取りやめても問題にはなりません。
購入意思は高いことを前提とした書類ですが、「キャンセルするかもしれないから」とせっかく気に入った物件に対して購入意思を示さないと、人気物件であればほかの購入者が現れてみすみす物件を逃すことになってしまいます。
多くの方は、そんなに早くは売れてしまわないだろうと思いますが、売れてしまった後に「しまった!早く申込書を出した方が良いとアドバイスをもらっていたのに。」と気がついてから、次回の物件から判断を素早く出来るようになります。
そうならないように、このブログを読んで早く決断出来るように心を決めておきましょう。
物件との出会いは一期一会ですから、後悔しないように慎重かつ迅速に判断することをお勧めします。