2023.07.21 更新 2018.08.27 公開
【簡単3ステップ】中古マンションの減価償却費の計算&節税対策を解説

「中古マンションの減価償却費ってどうやって計算するの?」
「大家さんになって初めての確定申告。必要経費の中の、減価償却費って何?」
「節税になると聞いたけど、デメリットはある?」
このように感じている方も多いのではないでしょうか?
中古マンションの減価償却費は、必要な要素が揃えば3ステップで簡単に計算できます。不動産投資で活用すれば利益圧縮による節税効果や損益通算による所得税の還付が受けられるのがポイントです。
そこで本記事では、次のような内容を解説していきます。
・不動産投資における減価償却とは?
・減価償却による節税のメリット、デメリット
・初心者でも簡単!減価償却費を計算する3ステップ
・賃貸化する場合の減価償却費ケーススタディ
・減価償却を最大限活用するための注意点
本記事を読めば、不動産投資における減価償却の概要が理解でき、確定申告に必要な計算が簡単にできるようになります。ぜひお役立てください。
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[著者]
ゼロリノベ編集部
元銀行員・宅地建物取引士・一級建築士が在籍して「住宅ローンサポート・不動産仲介・リノベーション設計・施工」をワンストップで手がけるゼロリノベ(株式会社groove agent)。著者の詳しいプロフィール
目次
不動産所得は減価償却費で節税しよう
不動産所得にかかる所得税は、減価償却費で節税できます。減価償却とは、必要経費のひとつです。車や建物などの固定資産を一度に経費計上せず、使用期間に分散させて経費計上させる仕組みを減価償却といいます。
減価償却費は、国税庁が定めた「法定耐用年数」の期間で経費化しなければなりません。
不動産所得は、収入−必要経費で計算します。減価償却費を必要経費に計上すると、もし不動産投資で赤字が出た場合でも「損益通算」で所得税の還付を受けられるほか、利益を圧縮で節税につながります。損益通算に関する詳細は、「2-1-2.損益通算で源泉所得税の還付が受けられる」で詳しく説明します。
1-1.減価償却費は必要経費のひとつ
減価償却費は、必要経費として計上できる項目の一つです。不動産投資で必要経費に計上できる項目には、次のようなものがあります。
<必要経費>
固定資産税などの税金、借入金の利子、管理費、修繕費、光熱費、減価償却費など
一方、収入として計上するのは次のような項目です。
<収入>
家賃、礼金、更新料、駐車場代など
上記の収入から必要経費を差し引き、残った金額が利益になります。減価償却費が大きくなり赤字となると、先にお伝えしたとおり「損益通算」で所得税が還付されたり、利益圧縮による節税効果も期待できます。
ただし、単純に減価償却費を大きくすればよいというわけではありません。次章で、減価償却のメリット、デメリットをそれぞれ見ていきましょう。
減価償却による節税メリット、デメリット
減価償却には、メリット、デメリットどちらもあります。両方を把握し、減価償却を最大限活用できれば、所得税の節税につながります。
メリット
- 不動産購入による減価償却で利益を圧縮できる
- 損益通算で源泉所得税の還付が受けられる
デメリット
- 購入した年は手持ち資金が減る
- 売却時に譲渡所得税がかかるため、納税額をストックしておく必要がある
これらに注意すれば、損をせず節税することができます。減価償却のメリット、デメリットそれぞれについて詳しく見ていきましょう。
2-1.減価償却のメリット
減価償却のメリットは2つあります。いずれも減価償却が節税につながる利点です。それぞれ説明していきます。
2-1-1.不動産購入による減価償却で利益を圧縮できる
不動産購入費を減価償却として計上すると、利益圧縮による節税効果が期待できます。また、不動産の購入費用を分散計上することで、毎年の利益を減額でき、所得税が抑えられます。個人の場合は所得税、法人の場合は法人税の節税対策になります。
2-1-2.損益通算で源泉所得税の還付が受けられる
減価償却費を計上すると、個人であれば「損益通算」という制度を利用することができます。
個人の不動産投資で損失が出た場合、「損益通算」することで、給与から差し引かれていた源泉所得税の還付が受けられる仕組みです。
青色申告、白色申告いずれの場合も適用され、青色申告であれば、純損失の繰越控除と損失の繰戻し還付が受けられます。
2-2.減価償却のデメリット(注意点)
減価償却には次のような注意点もあるので注意が必要です。
- 購入した年は手持ち資金が減る
- 売却時に譲渡所得税がかかるため、納税額をストックしておく必要がある
後からできる対策や、デメリットを回避する方法も合わせて説明していきます。
2-2-1.購入した年は手持ち資金が減る
不動産を自己資金で購入すると、減価償却を利用する・しないにかかわらず、手持ち資金が減ってしまいます。なぜなら、購入費を一括で経費計上できれば赤字となり税金を払わなくてもよくなりますが、減価償却費は一括して経費計上できないため、黒字が出ると税金がかかるからです。
減価償却費を分散して経費計上することはできますが、すぐに資金回収できるというわけではもちろんありません。
そのため、購入時一気に減った自己資金を、不動産運用で資金回収していくことが大切です。また、金融機関からの借入で不動産を購入すると、初年度に流出する自己資金を抑えることができます。
2-2-2.売却時に譲渡所得税がかかるため、納税額をストックしておく必要がある
減価償却費の計上総額が大きくなると、売却時に譲渡所得税が多くかかります。そのため、不動産投資を始めて利益がでても、すぐにそのお金を使ってはいけません。また、投資用物件を売却した利益で新しい物件を購入しようと考えている方も、注意してください。
なぜなら、売却時にかかる譲渡所得税を想定して資金計画を立てないと、最悪の場合、納税することができず自己破産(倒産)してしまうケースもあるからです。
減価償却費は多く計上するほど節税できるという目先の利得だけにとらわれず、売却時にいくらの現金が手元に残るのかが重要です。
減価償却を大きく計上したために、譲渡所得が多大になった場合は、譲渡所得にかかる税金(譲渡税)も多大になります。また、譲渡税を低減するために本来売れるはずの相場金額より、売却金額を低く抑えようとすることは、本末転倒になってしまいます。
大事なことは、売却時にいくらの譲渡税がかかるか?を把握して、納税に資金を備えておくことです。
譲渡所得は、次のように計算します。
※1:土地・建物の譲渡代金、固定資産税・都市計画税の精算金
※2:取得費 次の①、②の内大きい金額を使用
①実額法:土地建物の購入代金と取得に要した費用を合計した金額から、建物の減価償却費を差し引いた金額
②概算法:譲渡収入金額×5%
※3:譲渡費用 売るために直接かかった費用
減価償却期間が終了してから売却すると、会計上の建物価値(当時の購入価格)はほとんどなくなってしまうのです。よって、上記の式より譲渡所得が大きくなります。
譲渡所得は「長期取得(5年超)」=20.315%、「短期取得(5年以下)」=39.63%と税率が大きく変わります。売却時の所得年数が5年以下になる場合は注意が必要です。
2-3.減価償却が終わり税金が増える前に、買い替えや売却を検討しよう
減価償却費は必要経費で計上できる項目の中でも大きな額を占めます。この減価償却期間が終わると、帳簿上の利益が増え、その分税金も多くなるのです。
減価償却期間が終わり、ローンの返済が残っていると、資金繰りが苦しくなっていきます。なぜなら、不動産投資用のローンは通常の住宅ローンより返済期間が短いため、毎年の返済金額が大きくなります。
そこに減価償却期間が終了し、減価償却費を必要経費に計上できなくなれば、所得税が膨らんでしまいます。帳簿上では黒字なのに手持ち資金ばかりが減ってしまうことになりかねません。
資金繰りが苦しくなると、最悪の場合、黒字なのに自己破産(倒産)するケースもあります。
こうした事態を避けるために、投資用物件を購入する前に自己資金を多く投入してローンの返済額を少なくしたり、新しい物件を購入して減価償却費を増やしたり、といった対策を検討してみましょう。
3ステップで簡単!マンションの減価償却費の計算方法
マンションの減価償却費は、3つのステップを理解すれば簡単に計算できます。建物の場合、減価償却には下の式のような定額法を用いて計算します。
<定額法>
建物の購入価格 × 償却率 = マンションの減価償却費
建物の購入価格と、償却率を調べるために必要なのが次の3ステップです。
- 建物の購入価格を調べる
- 建物の法定耐用年数を割り出し、償却率を調べる
- 建物の購入価格 × 償却率の計算式に当てはめて計算
流れが掴めたところで、次は計算方法について詳しく説明していきます。
3-1.減価償却を計算する方法=定額法
先にお伝えしたとおり、建物の減価償却費は、定額法を用いて計算します。定額法は、毎年同額ずつ建物費用を経費計上していく方法です。
※定額法の計算方法について
取得日が平成28年以前の方は、国税庁が発表しているこちらの説明をご覧ください。
3-2.【STEP1】建物の購入価格を調べる
中古マンションの建物価格は、次の2通りの方法で調べることができます。
- 消費税額から逆算して建物価格を調べる
- 固定資産税評価額の按分比率から建物価格を調べる
それぞれについて詳しく説明していきます。
3-2-1.消費税額から逆算して建物価格を調べる
マンションの売主が法人であった場合、建物の消費税額から逆算して建物価格を調べることができます。なぜなら、土地はそもそも消費税がかからないため、消費税額が分かれば逆算して建物価格がわかるのです。消費税額は売買契約書に必ず記載されていますので、確認してみましょう。
3-2-2.固定資産税評価額の按分比率から建物価格を調べる
売主が個人である場合は、建物に消費税がかかりません。この場合、固定資産税評価額の按分比率から建物価格を調べることができます。
固定資産税評価額の按分比率を調べる方法は次の2通りです。
- 4~5月に各市町村または都主税局から届く「固定資産税納税通知書・課税明細書」
- 役所・都税事務所で「固定資産公課証明書」を取得
※本人確認書類と手数料が必要、遠方の場合は郵送も可
住み替えや転勤などの理由で自宅を賃貸に出す場合、購入額から「居住中に減少した建物の価値」を差し引いて「未償却残高」として確定申告書に記載します。自宅など非業務用資産の減価の額の計算は、旧定額法で行います。
居住用マンションを事業用に転用する場合の計算例は、以下の国税庁のページを参考にしてみてください。
参照:国税庁HP「No.2109 新築家屋等を非業務用から業務用に転用した場合の減価償却」
参照:国税庁HP「No.2108 中古資産を非業務用から業務用に転用した場合の減価償却」
※住宅ローンは賃貸用の住宅購入に利用できません。転勤などやむを得ない事情で賃貸に出すなどの場合は、まず銀行に相談をしましょう。
3-3.【STEP2】建物の耐用年数から償却率を調べる
建物の購入費用が分かったら、次に償却率を調べます。償却率を調べるために、建物の耐用年数があと何年残っているのか確認しましょう。
3-3-1.鉄筋コンクリート造マンションの法定耐用年数は47年
鉄筋コンクリート造マンションの法定耐用年は47年と定められています。鉄骨造(S造)の住宅は34年、木造住宅は22年です。所有されている物件が中古の場合、ここからさらに経過年数を加味して耐用年数を割り出します。
下の表はマンションの構造別に耐用年数と新築時の償却率をまとめたものです。
参照:国税庁「主な減価償却資産の耐用年数(建物・建物付属設備)」
マンションの耐用年数についてより詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
3-3-2.中古マンションの耐用年数は2つのケースに応じて計算が必要
中古マンションの耐用年数は、法定年数を超えている場合と、そうでない場合とで計算方法が変わります。
①法定耐用年数を超えていない場合
(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×0.2
※経過年数とは築年数のこと。居住用に使用した期間はこれに含めません。
②法定耐用年数を超える場合
法定耐用年数× 0.2
先ほど表で調べた法定耐用年数と、経過年数を当てはめれば、償却率を割り出すために必要な耐用年数が分かります。
3-3-3.算出した耐用年数と照らし合わせ、償却率を確認
下の表は、耐用年数と償却率の対応表です。先ほど算出した耐用年数をもとに、建物の償却率を調べましょう。
参照:国税庁「No.2105 旧定額法と旧定率法による減価償却(平成19年3月31日以前に取得した場合)」
3-4.【STEP3】建物の購入価格 × 償却率の計算式に当てはめて計算
それでは実際に、減価償却費の計算式に当てはめて費用を求めてみましょう。減価償却費を求めるとき、端数は全て切り捨てにします。
3-4-1.築10年の中古マンションを建物価格1,500万円で購入した場合の減価償却費
不動産投資のために築10年の中古マンションを購入した場合、次のように減価償却費を計算します。
▼建物価格 1,500万円
▼法定耐用年数の残り年数は47年-10年=37年
▼見積耐用年数は(47-10)+10×0.2=39年
▼償却率は0.026
▼減価償却費は 1,500万円×0.026=39万円
これで、減価償却費=39万円が算出できました。
*見積耐用年数やその計算方法については「国税庁HP」をご覧ください。
国税庁「No.5404 中古資産の耐用年数」
3-4-2.新築当時建物価格2000万円で購入したマンションを5年後に賃貸化した場合の減価償却費
住み替えや転勤などで、新築購入したマンションを5年後に賃貸へ出すケースです。減価償却費は建物価格×法定耐用年数の償却率で計算します。事業用に転用するまでに減少した価値を建物価格から差し引き、その額を未償却残高として確定申告書に記載します。
▼法定耐用年数は47年
▼償却率は0.022
▼減価償却費は2,000万円×0.022=44万円
これで、減価償却費=44万円が算出できました。未償却残高は次のように計算します。
▼居住中に減少した価値
2,000万円×0.9×0.015×5年=135万円
※減少した価値は旧定額法で計算
※法定耐用年数の1.5倍の年数で償却率を出す
(この場合47年×1.5=70年で、償却率は0.015)
▼ 事業用に転用した時点の未償却残高は
2,000万円−135万円=1,865万円
▼事業用に転用した年の期末の未償却残高は
1,865万円−44万円=1,821万円
計算方法について詳しく知りたい方は、以下のページを参考にしてみてください。
参照:国税庁HP「No.2109 新築家屋等を非業務用から業務用に転用した場合の減価償却」
減価償却費で計上できる設備投資、できない設備投資
減価償却費で計上できるのは、不動産取得にかかったお金だけではありません。中古マンションを取得し、賃貸化のために行った設備の取り替え費用や、リノベーション費用も減価償却として計上できます。
一方で、小規模なリフォーム費用は減価償却費ではなく、修繕費として一括の経費計上が可能です。
4-1.設備費も減価償却費に計上できる
給排水設備やガス設備、電気・照明などの設備も、減価償却費に計上することができます。耐用年数は15年で、計算方法は建物の減価償却と同じです。
ただし、「蓄電池設備は耐用年数6年」など、一部の設備で耐用年数が異なります。設備ごとの耐用年数を知りたい方は、国税庁資料「主な減価償却資産の耐用年数表」をご確認ください。
4-2.「リフォーム」は修繕費、「リノベーション」は減価償却で経費計上?
リノベーションあるいはリフォームの費用を「修繕費」と「資本的支出」のどちらで経費計上すべきか、 詳しくは税理士や税務局に確認が必要です。ある程度ご自身で判断する際の軸として、次のような例が挙げられます。
修繕費となるリフォームの例
- 工事費用が20万円未満のもの
- 原状回復のために行われたもの
- 工事費用が20万円を超えているが、3年以内に定期的に行っているもの
- 災害で被害を受けた箇所の修復のために行われたもの
資本的支出となるリノベーションの例
- 工事費用が20万円を超えるもの
- 元の状態より価値を高めたもの
- 販促を目的とした改装や増築、設備の追加など
- 災害に備えて設備を強化・追加した場合など
資本的支出と見なされた場合、リノベーション費用に適用される耐用年数は、新築時と同じになります。鉄筋鉄骨造であれば47年、木造であれば22年かけて減価償却を行うということです。
参照:国税庁「第8節 資本的支出と修繕費」、「No.5405 資本的支出後の減価償却資産の償却方法等」
まとめ
この記事では、マンションの減価償却費を計算する方法や、減価償却のメリットとデメリット、減価償却の注意点などを説明しました。最後にポイントをおさらいしましょう。
減価償却のメリットと注意点
▼メリット
①不動産購入による減価償却で利益を圧縮できる
②損益通算で源泉所得税の還付が受けられる
▼注意点
①購入した年は現金が目減りする
→金融機関で融資を受ける場合はキャッシュを持ち出さずに経費計上できる
②売却時に譲渡所得税がかかるため、納税額をストックしておく必要がある
減価償却費は3ステップで簡単に計算できる
①建物の購入価格を調べる
②建物の法定耐用年数を割り出し、償却率を調べる
③建物の購入価格 × 償却率の計算式に当てはめて計算
耐用年数ごとの償却率
不動産投資における減価償却は、うまく活用すれば最大限の節税になりますが、保有年数によって譲渡税率が変わるので、手残り現金を最大限化するために売却のタイミングを考えることが重要です。
計算方法と仕組みへの理解を深め、無理のない不動産投資を行いましょう。
減価償却とは?
減価償却とは、必要経費のひとつです。車や建物などの固定資産を一度に経費計上せず、使用期間に分散させて経費計上させる仕組みを減価償却といいます。詳しい計算方法については記事内で解説しています。
中古マンションの減価償却はどう計算するの?
減価償却費は建物の購入価格×償却率で計算できます。詳しくはシミュレーションを元にわかりやすく解説している「3.ステップで簡単!マンションの減価償却費の計算方法」をご確認ください。